2020年8月13日

御巣鷹山とTRON

3月12日は、JL123便が御巣鷹山の尾根に墜落して、日本の航空機史上最悪の航空機事故が発生した日。遺族の高齢化と新型コロナウイルスの影響もあり、今年の事故現場への慰霊登山はかなり規模が縮小したみたいですが、当時リアルタイムにこの事件を経験していた一人としては、やはり35年過ぎても記憶に深く残る事故だし、その後飛行機好きとなり毎年何度も利用している身としては、程度の差はあれ登場するときには毎回ふと心に浮かんでくる事柄の一つであることは間違いありません。

個の事故が発生した時は、丁度社会人一年生の時で、神戸で散々現場実習を体験して、やっと本来の配属先である開発部門に戻ってきたところ。当時は、個人的に飛行機に乗る機会などほとんど無かったので、個の事故の一報を聞いたときも「大変だぁ」みたいな印象でしたが、会社の社員が確か20名以上搭乗していた事がわかり、直ぐに社内は大騒ぎに。また、現場実習で言っていた神戸事業所の人は確か犠牲者は無かったはずなんですが、大阪の事業所関係者が10名前後含まれていて、大阪や神戸も大変な騒ぎになったと、現場実習時に指導して貰った先輩社員の方から聞いてびっくりしました。羽田-伊丹というビジネス幹線路線で、かつ使用機材がB747という大型機だったので、犠牲者数は520名近くとなり、弊社だけで無く多くの企業で多数の社員が犠牲になり、一時期東京や大阪はかなり動揺したように記憶しています。で、TLに流れていくこのJL123関係の記事を見ていたら、「TRONの技術者も多数犠牲になり、それによってWindowsを凌駕する機会を失った」という書込があって、そう言えばそう言うこともあったなぁと思い出しました。

生みの親である、坂村健氏がTORNをプロジェクトとしてスタートしたのが1984年6月。当時は、まだDOS全盛時代で、Microsoftが後のWindowsに当たるコンセプトみたいものをちょっと出していたくらいで、OSと言うよりはタスクスイッチャーみたいなもの。だから、当時のTRONはWindows対抗では無くて、DOS対抗のOSやH/Wも含めたシステムデザインみたいな物だったように想います。1985年位になると、既にIBM PC-ATも登場していて、AT互換機という市場も出来ていた時代だけれど、TRONはそれらを目指すと言うよりは、日本で当時流行っていた「マイコン(マイクロコンピューター)」用のOSみたいな印象で、個人的には大学でも弄っていたDigital Research社のCP/Mの派生形みたいな印象でしたね。まぁ、そのCP/Mの子孫であるSeattle Computer Productsの80-DOSがPC-DOSになり、Windowsへ繋がっていくわけだから、根っ子は同じというと言い過ぎか。だから、TRONがWindowsを意識しだして、GUIとかやるようになったのは、1990年に入ってからで、これもH/Wが早くなってきたことと、当時Windows3.1が大成功したために、「日の丸OS」とか「国産OS」とか言って、逆にTRONを追い込んでいったように気がするんですよね。JL123の事故が無くて、スタート当時のTRONエンジニアがそのまま開発を続けていたら、私はWindowsの対抗馬というよりは、今のApple/Macみたいなものが生まれていた可能性の方が高いような気がします。実際組込の世界では、TRONは世界中で使われているので、IoTの時代においては実は隠れた主役なんだろうけど。

TRONもそうだけれど、あの事故の時には520名もの人が犠牲になり、それらの人のそれからの人生も一瞬で消えてしまった。坂本九さんも犠牲者の一人であることは余りに有名だけれど、彼が存命だったらその後新しいヒット曲が生まれただろうか。仮に、ヒット曲が生まれなかったとしても、「上を向いて歩こう」は名曲だし、ずっと歌い継がれると思うけれど。そう言う意味では、生存していて救助された4人の人達の運命だって、多分想像を超える苦しみや苦労があったはずで、それを想うと今更ながらにこの事故の大きさを再認識しますよね。仮にTRONがあのまま続いていたら、今の世の中はもっと住みよくなっていただろうかというと、多分歴史の厚みと弾力性はそんなに変わらないので、結果的には今のようなWindows中心の世界になっていたように思います。当時、すでにDOSが席巻していたし、AT互換機の世界が事実上形成されても鋳たわけだし、そこに新規参入するには並大抵の努力では太刀打ちできないと思うし。でも、結果的に今もTRONは残っているし、見えないところで重要な役割を演じているわけで、それは犠牲者の気持ちを抱きながら残された家族も精一杯その分も含めて今も生きていることと同じような気がします。見えないところだろうが何だろうが、残っていくこと、続けて行くことが、一番大切だと思う。

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