2020年8月4日

都合良くグラフ化する

メディアや野党の参考人として著名な、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が公開した、「各国と日本の人口10万人あたりの新規感染者数の推移」なるグラフが物議を醸すことに。
先ず最初に公開されたグラフがこれで、日本と欧州とカナダの推移を比較して、「真夏の北半球でコロナが急増している先進国は、トランプを指示する米国の一部と日本くらいです。」とコメントしている。所が直ぐに、日本とそれ以外の国では、スケールが違うとツッコミが入ります。確かに、日本とそれ以外の国とでは、10倍違う。さらによく見ると、横の点線は左側の日本の値に合わせて二人ずつ六分割しているのに、右側の外国の値はそれとは同期せずに七分割している。大体、同じ値を比較するのに、なんでスケールを分ける必要が有るのか。普通この手のグラフを使用するときは、異なる事象(だから単位系も異なる)の相関などを見るときに、時間軸など共通の部分を合わせて重ね合わせて使用するもの。さらに不思議なのは、日本は棒グラフを使用しているのに、外国では折れ線グラフを使用している。あくまで推測ですが、棒グラフでは寄り目立って見えるので、いかにも日本の動向が問題であることを強調したいようにも受け取れます。
当然総突っ込みが入り、差し替えて公開したのがこのグラフ。グラフ自体は変わっていないようだけれど、何故か右側の外国の値が消えています。これでは、外国のデータも日本と同じ数名単位で変化していると読めてしまい、事実ですら無くなっており、先のグラフ以上に意味を失っています。

ここで上氏は「PCR検査数が違うため実数の比較可能性はありません。ただ、同じ国で時間軸の比較は可能です。日本だけ増加しているのは明らかです。」とコメントしています。でも、このコメントも不思議で、
  • PCR検査数が違うため実数の比較可能性はありません。
    検査数の多少で、発見される陽性者数も変わるというのは正しいと思うのですが、もともとこのグラフでは陽性者数の実数を比較していないのだから、無意味なコメントでは。
  • ただ、同じ国で時間軸の比較は可能です。
    このコメントも変で、「同じ国で時間軸の比較」とはどういう意味なんだろうか。「同じ国」なんだから、時間軸が変わるはずはない。せめて言うなら「一日の変化を一週間比較する」とかいうならわかる。ここは「異なる国でも時間軸の比較は可能です」の間違いじゃないだろうか。実際、グラフも3月1日から7月29日までの各国のデータを取り出して比較しているわけだし。
  • 日本だけ増加しているのは明らかです。
    これもおかしなコメントで、少なくともフランスは一週間ごとのピークは増えていると読めるし、カナダも上昇傾向にあるように見えます。折れ線グラフが重なって見えにくいのですが、黄色のドイツも水平よりは上昇気味に見えます。「日本だけ増加している」というには証拠に乏しいといえます。
さらに見ていて不思議なのが、最初に掲載したグラフ右下に「2020年7月30日作成 山下えりか」となっているのに、後から掲載したグラフでは「2020年7月29日作成 山下えりか」と作成日が一日早くなっています。なぜだろう。出典データの日付が29日だから、それに合わせたの? でも、29日に出たデータが29日に作成されるのもちょっと変な気がする。それとも、先に後から公開したグラフを作り、その後で右側のスケールを追加したんだろうか。そういえば、先に掲載されたグラフの解像度は低いのに、後から掲載したグラフは高解像なんですよね。邪推すれば、あまりあらを探されないように、わざと醜く解像度を落とした、ようにも見えます。

これに対して、「手を洗う救急医Taka」氏が、10万人当たりの比較と総人口当たりの比較のグラフを公開されましたが、単位当たりの陽性者数や増加の傾きに多少の違いはあれど、日本も比較された北半球の先進込みも、ほぼ同じような傾向にあることが読み取れます。陽性者数が増加していること自体は決して好ましくないけれど(収束しない)、じゃぁ陽性者数が仮に今の1/10、1/100だったとしても、その致死率が日本だけ100%近かったら、それは大きな問題になると思うんですよね。でも、今の日本は、たぶんこれら比較されている先進国中、一番死亡者数も重症者数も少ないのでは。以前から言われているように、闇雲にPCR検査をすることはかえって逆効果で、それで一度破綻したのがイタリアだったり今の米国だったりするわけです。この上氏は、ご自身がかかわる医療機関で積極的にPCR検査を売り出していることもあり、その関係も疑われているんですが、本当にPCR検査が必要と思うなら、それを裏付ける「加工なし」の情報を提示しないと。

上氏は続けて、PCR検査数のグラフを公開していて、どうも日本の検査数の少なさを強調したかったようなんですが、このグラフで見るべきは実数である「死亡数」でしょう。
日本は、他国と比べて実数で1/10、人口比で比べれはそれ以上に死亡者数が少ないわけで、すでに言われているようにこの数値はインフルエンザでの死亡者数よりも少ない。PCR検査数が少なくとも、実はより効率的に検査をし、感染者の状況に応じて適切かつ十分な医療提供ができれば、最悪のリスクは回避可能という証明といってもいいでしょう。だからこそ、余裕のある今十分医療設備を準備し、かつ感染者数が急増しないように「三密」回避をこれまで以上に今注意するべきという証拠だと思うんですが。少なくとも、上氏が言っていることとは反対の事実が自らによって明らかにされている気がする。「ガバナンス」を言う人が、こう言う事をやることの矛盾だよなぁ。

[2020年8月6日追記] あのBuzzFeedにすら否定されてしまいました(号泣)。事前に「BuzzFeedに取材されました。自分の正しさが証明されると思います」みたいなコメントをツイートとしていた上氏ですが、記事公開後は... まぁ、疫学とか感染学以前の話だよなぁ、このグラフ事件は。

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