2011年1月4日

「成す」を知る

年末年始のTV番組は、まぁこれと言って面白いものも無いのですが、昨晩たまたまチャンネルをザッピングしていて偶然見つけて見入ってしまったのが、日頃はまず見ることのないNHK教育テレビの、21:00-22:00に放送された「道場六三郎・80歳の挑戦」というドキュメンタリー番組。道場さんと言えば、もう我々世代では「料理の鉄人」として有名な人物。残念ながら、氏のレストランに行ったこともなければ、料理を味わったことも無いけれど、その破天荒とも言える行動や言動にはちょっと引かれます。テレビや雑誌といったメディア経由でしか知ることがないので、それなりにバイアスが掛かっているとは思うけれど、それを差し引いても面白い人だなぁというのが感想。

この番組は、この1月3日に80歳(!)を向かえる道場氏が、関係者・知り合いを招いての記念食事会の模様を追ったドキュメンタリーでしたが、なかなか面白い内容でした。自分の父親よりも年上の80歳という年齢にも関わらず、まだまだ新しいことに対して挑戦するエネルギーは凄いなと正直思います。自分が多少料理をするから言うわけではないけれど、料理人とエンジニアって、似た要素があると思うんですよね。例えば料理は我々で言えば一つの製品あるいはプログラムと思えば、その中でどんな素材(=テクノロジー、プログラミングテクニック)を使うか、盛りつけ(=H/W、S/Wデザイン)はどうするか、料理の順番(=製品シリーズ、バージョン間の統一性)はどうするか、さらには会場の雰囲気とか料理を出したり片付けるタイミングは、製品のサービス・サポートとも言えるし。

番組の中では、食事会用の新しいメニュー開発で、試しては失敗してもう一度試しては改良してという様子が映し出されますが、開発という仕事でもある程度の失敗と成功の繰り返しがないと、なかなか新しい事は出来ないし、それが次に繋がりませんよね。自分が社会人になって仕事を始めたころは、まだ社会も会社も余裕のあった時期なので、多少の失敗も許容されたし、次に何か新しいことを成し遂げたり成功すれば以前の失敗は問題になりませんでした。でも、その後の厳しい経済環境になると、まずは失敗しないことが第一で、その上で成功することが求められることになり、正直安全策しか取れないモードになってきて、結果的により安い製品、より早く出来る製品といったような「手離れがよい製品」ばかりになったような気がします。そうなると、固有技術とか伝統的な技術なんて二の次で、ある程度規模があって体力のあるところしか生き残れない時代になって、それってゆとり教育時代を過ごしてきた、正直やや物足りなさを感じる最近の20代と同じような気もします。

番組の最後に、道場氏がこれまで作ってきたメニューとか雑誌などの記事を外で焼いて処分し、過去の成果にはとらわれずにこれからも新しい何かを作り続けていく、と言うようなまとめで終わるのですが、これはこれで凄いことだなと思いますね。イメージ的な話ですが、何か新しい事をやるというのは、前に進む作業だと思う一方、今ある技術・製品に対して何か改善する・追加するというのは、横に広げていく作業だと思うんですよね。料理というのも、新しい食材や調理法を積極的に取り込んでいくのは「前に進む作業」だと思うし、昔からある料理・調理法にもう一度光を当てたり、それを利用して現代風に少しアレンジしたり器を変えたりというのは「横に広げる作業」だと思います。前ばかり見ていても、気がついたら道を外れているかもしれないし、逆に横にばかり手を広げても新規性のない単なる伝統遵守の詰まらない作品になってしまうかもしれないし、どちらもバランスをとってよりよい料理(=製品)を目指すことが重要だと再認識しました。実際に料理を食べたわけではないけれど、本当に美味しい料理を頂いて満腹になるような、そんな満足感を感じた番組でした。

この番組、NHKアーカイブに登録されるんだろうか。録画して、何度でも見直してみたいですね。

0 件のコメント:

コメントを投稿