2025年7月25日

AI Prompt

佐々木俊尚氏が紹介していた、生成AIを利用しているつもりが利用しきれずに悪循環に入ってしまうと言う話。さもありなんと感じるのは、似たような話は自分が関わった開発の世界でも何度か見聞きしたことがあるから。

私が社会人になった頃は、まだパソコン登場の黎明期で、最初に手がけた仕事はホストコンピューターの端末機の診断プログラム開発。すごく乱暴に言ってしまえば、パソコンの元祖の元祖みたいな存在ですが、確か当時の内臓ROMサイズは8KByteとか16KByteで、そのメモリーサイズの中に端末機能のマイクロコードやホストとの通信プログラム、さらには故障時にエラー表示するような診断プログラムとか開発して実装していました。診断プログラムなんて、最初は全体で2KByteとかで、途中倍の4KByteになった時には、どうやってコードを埋めようか悩んだほど(笑)。当然コーディングはすべてAssemblerで、かなり苦労して工夫してコードを圧縮というか最適化しつつ必要十分な診断テスト機能の提供のために残業したものでした。Assemblerをいじっていると、どうしても頭の中ではレジスター操作やビット操作の処理が必要になり、いかに1bitを使い込んでいくのかが、効率的コーディングの肝。そういう経験をして、その後PascalとかCとか所謂「高級言語」の世界に入ると、それまで自分が作り込んできたような機能や動作が「ライブラリー」とか「マクロ」とか、あるいは言語の演算子や機能として内部実装しているので、すごく楽になるけれど何か物足りなさも。プログラミング効率とか、品質の面では向上するんですが、リソース要求は大きくなるので、ハードウェアの進化も必要になり、世の中はどんどん進んでいったのは歴史が示すとおり。今では、高級言語ところか「コードレス」のアプリケーション開発も普通になってきていて、どんどんコンポーネント化されるのは良いけれど、その中身を知らずに機能だけ理解して使用するから、時々落とし穴にはまることもあるんですよね。

同じような話としては、1990年代は国内の家電メーカーほとんど全てが自社開発のパソコンを開発・販売していたけれど、その後競争が厳しくなり淘汰されていくと、当時ならば台湾メーカーへODM/OEM製品を委託するようになり、国内メーカーは外装のデザインをするだけ、みたいな状態になったことがあります。自社開発のエンジニアがいるうちは社内でテストや検査も出来ただろうけど、どんどん外注化していくと、コストは下がるかもしれないけれど、製品をブラックボックスの状態で納品されてくるような感じになり、多くのメーカーは「パソコンメーカー」というか「パソコン販売企業」というような形になってしまいました。そうなると、OEMを活用して個性的な製品や突出した機能実装することも難しくなり、結局はODM/OEMメーカーが提案してくる、半完成品みたいなものを最終的に仕上げて自社ロゴを貼って売り出すことしか出来なくなるんですよね。さらに困るのは、保守やサービスも出来るスキルが無くなっていくので、それらも外部委託するか、修理とは名ばかりの「製品交換」で対応するしか無くなってきて、その分コストが圧迫されるという悪循環も。

高級言語にしてもODM/OEMにしても、元々はそれまでの煩雑な手続きや作業を、まとめて処理してくれる「便利なツール」だったわけです。ところが、それに依存してしまうと、その部分で培われたスキルや技術の蓄積が出来なくて、製品計画と販売にどんどんシフトしてしまいます。その製品計画も、独自製品の開発はほとんど出来ないから、基本は開発委託先の製品計画をベースに色づけしていくだけ。だから、先進技術の名前は知っていても、その内容やメリット・デメリットの判断も出来なくなってしまう。でも、その分コストは安くなり製造計画も自分たちで在庫を持たなくて良くなったりするから、ビジネスとしては効率的になるんですよね。ただ、それってライバルメーカーも同じ事が出来るわけで、そうなるとよりボリュームのあるメーカーが有利になり、結果どんどん淘汰されていくことも厳しい現実の一つ。今のビジネスモデルとして、そういうデザインや開発、あるいは製造という、時間もお金もかかる部分をどれだけ効率化するかは重要な課題だと思うけれど、だからこそそういう部分においても、相手と対等以上に話が出来るような人材がいないと駄目。そういう経験を何度もしている自分からすると、だから最近の生成AIブームはすごいことだと思いつつも、あまりに生成AIに依存しすぎている様子もまずいんじゃ無いという一種の危機感を感じます。かといって、生成AIに匹敵するようなデータ量や推論機能を持つことは無理。じゃぁ何が出来るかと言ったら、記事に書かれているようにいかに疑問点を見つけて、それに対して深掘りできるか、ということだと思います。その為には、生成AIが見ているようなネットだけで無く、それ以外の文献だとか技術交流会みたいなイベントへの参加も重要だし、まず一番重要なのは現実社会での日々の生活の中からどのような刺激を感じるのかという、生の情報ではないかなぁ。

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