2024年6月6日

不正と最適化

佐々木俊尚氏が紹介していた、自動車メーカー5社の不正騒動の背景。最初報道された時には、「不正があった」事しか伝えられないので、一体何がどう不正行為があったのか疑問でした。その見えなかった「不正行為の内容」を説明した記事を読むと、確かに定められたルール・規則に沿った手続きをしていない点では「不正行為」では有るのだけれど、実はそこで要求されている用件は別のテストなり検査で満たしているので、改めて重複したテスト・検査を繰り返す無駄を省いたという事らしい。筆者は記事見だしで、「自動車メーカーはセコいが、国交省は頭が硬い」と書いているけれど、それが全てを言い表している気がする。

自動車もそうですが、自分も関わるパソコンとか電子機器のように、国内だけで無く海外でも発売するような場合には、それぞれの商品カテゴリーで規定されている色々なルールや仕様に認証なども受けないと販売出来ない。昔パソコン黎明期の頃困ったのが、当時のノートブックパソコンが電話通信用のモデムを内蔵しだした時で、それまでは不要だった各国の電気通信規則(ホモロゲーション)を満たさなくては成らず、これが凄く大変でした。其れ以前は、モデムは外付けが普通だったので、既に現地で利用可能なモデムを使えば良かったけれど、内蔵となるとそのパソコン自体が「通信装置」になるので、パソコン本体で認証を受けないといけない。当時は、国によって規則が異なり、確かヨーロッパ等も国境を跨ぐと別仕様になったりしていた時代で、大変でした。最初の頃のモデムは、だから外から基盤を交換できるようになっていて、国・地域毎にモデムが異なっていたよなぁ、確か。似たような事例では、Wi-Fiもそうですよね。ただWi-Fiの場合は、使用する周波数帯が異なったりするので、その部分は国・地域毎の認証は必要だろうけど。

今回の場合、例えば衝突テストで日本の仕様よりも厳しい条件でテストをしてクリアーしていたら、それは日本のテストも含むというような最適化を、これから勧める切っ掛けにならないだろうか。実は、量産前の製品って、製造コストが何倍何十倍とかかる場合が多いので、出来ればテスト用に壊したりする開発製品は極力少なくしたいのがメーカーとしての本音だと思う。今はシミュレーション技術も発達しているから、事前にかなりの精度で設計して、実際に物理的なテストで確認する項目も、そこから修正が必要になる場合も減っているだろうけど、昔は本当に作っては壊し、作っては壊しを繰り返して、最終的な製品にして行ったもの。で、ほぼ最終的な製品にまで仕上げたら、例えばシールドが少し甘くて無線関係の認証が通らないとか、もう目も当てられない。特に機構設計をやっているは、そういう修羅場をくぐり抜けて技術とスキルを身につけたんじゃ無いだろうか。同じように、電子回路設計だって、極々狭い敷地に回路を押し込み、そこに信号品質が悪いとかノイズが乗るとかクレームされてみたいな事も有りました。ソフトだって、昔はソフトでタイミングを取ったりしていると、ちょっと負荷が高くなるとタイミングがずれて失敗したりとか、色々ありましたし。

閑話休題。例えば、右ハンドル・左ハンドルでテスト項目が異なるみたいなことなら、それは仕方ないと思うし、軽自動車とセダンとSUVで、衝突テストのやり方が違うとかも理由は納得出来ます。それでも、記事にも書かれているように、日本度欧米では衝突する場所が違うので、補強の仕方も変わるというのが「差別」みたいな伝えられ方をして必要の無い修正まで要求されるのは、メーカーとしてはやはり理不尽に感じるかも。逆の話では、湿気の多い日本では防水は結構重要な要素だと思うけれど、雨の少ない地域向けモデル等では過剰設備になってしまうだろうし。以前有ったような、必要なテストを偽装してやっていないのにやったようなことは当然駄目だけれど、同等のテスト結果を流用するとか、そういう部分は今回の件をきっかけに、自動車メーカーや関連メーカーと国交省は話合いをしたらどうだろうか。そこでより効率的な方法や手法が適用されれば、それはそれで国内メーカーの競争力を増すことにもなるわけですし。

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