2024年3月12日

ローコストを称えるな

アカデミー賞で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞を、山崎貴監督の「ゴジラ -1.0」が視覚効果賞を序章して、今朝は大きな話題に。 その様子を伝えるニュースでは、両作品を勝算するとともに、アジア作品では初めて受賞した「視覚効果賞」のコストが、これまでの序章作品、例えば「スターウオーズ」とか「パイレーツオブカリビアン」などと比べて、1/10 (100億 vs 10億)で、活参加人数も少なく期間も短いのにあのクオリティという「安い、早い、上手い」みたいな評価をされていて、それはそれでいかにも日本人らしいのだけれど、一寸違う気がするなぁ。

所謂「ハリウッド映画」は、世界的な興行を前提にしているから、売上額も邦画とは一桁違うし、それ故に制作費にしても一桁違いくらいは普通。視覚効果(VFX)、いわゆる「CG」は、どれだけコンピューターリソースを投入するかの勝負だから、そこは機材にお金を掛けて、かつそれを操作するオペレーターやクリエイターがどれだけ参加出来るかの勝負である事は確か。それでも、制作費1/10というのはまだしも、参加人数か期間短縮はどういう工夫があったのか、そこは聞いてみたい気はしますね。単純に徹夜しましたみたいな話ではなく、多分何かアルゴリズムを作って、パラメーターを弄ることでいろいろな対応可能にしたりみたいな話があるんじゃないかなぁ。例えば今回の作品の場合、海上のシーンが多くて、その場面での波の処理が評価されているけれど、あれなんかも上手く元となるパラメーターを設定したら、後はそれらを微妙に変更させて色々な場面での色々な形状の「波」の生成なんて出来るんじゃ無いだろうか。

そう言う意味では、今後は生成AIを活用して、そういう人出だと多くのリソースと何度も試行錯誤するような作業を、生成AIにドラフトみたいな形で作成させて、それを最後に人間が作品に合わせてチューニングするような流れになりそうな気がします。元々現実には「無い」「作れない」ものを、CGで作成して、それをいかにもらしく動かしたりするわけですから、人出で最初から元画像を作成しようか、生成AIが作成したものから加工していこうが、そこは何ら変わりないはずですし。そう言う、素材みたいな物って、今後どんどん置き換えられるんじゃ無いだろうか。その上で、一度生成したデータを共有出来れば、次の作品はもっと簡単に早く安く必要なシーンを作成出来る相乗効果が生まれそうな気がします。

仮に今回のVFX制作費が、ハリウッドの100億に対して10億だとしたら、倍の20億を費やしたらどれだけの高品質の物、あるいは納期が今回は8ヶ月との事ですが、半分の4ヶ月とかに短縮出来るのだろうか。一般的に、価格が半減しても内容が元のものと同一であれば、多分殆どの人が飛びつくはずですよね。「日本は安く制作出来る。次はもっと安く作る」みたいなデフレ志向では無く、「行程を最適化すればこれだけ効率化出来る」「だからもう少しコストを掛ければ、さらに凄いものが出来る」という発展的な考えに繋げて欲しいですよね。そういう部分が、方が作品の強みになって、まずは数をどんどん生むべき。その中には、駄作も多いだろうけど、そう言う経験の積み重ねが次の「傑作」を生むものだし。「物作り」は、自分が関わっているようなものから、こう言う映画とか映像系まで、やっぱり突然何か凄いものが生まれてくるわけでは無く、どれだけ経験したかとかどれだけ失敗したかの積み重ねが重要。制作費が1/10であるなら、相手の10倍は無理としても何倍もの挑戦をその分やって、次の作品に繋げて欲しいですよね。

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