2023年1月1日

テロを容認するメディア

年末に毎日新聞に掲載されて、特にネットでは物議を醸した元日本赤軍最高幹部・重信房子氏のインタビュー記事(前編後編、どちらも有料記事)と、それに対して異議を唱えたギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使の反論記事(無料記事)。両者の記事を掲載したのは、「両論併記」という意図なのだろうか。でも、それならば最初の主張である重信氏の記事が全体はそのままでは読めない有料記事なのに、それに対しての反論記事は全文が無料記事として掲載されているのは、バランスが悪い配慮のように感じます。

また、重信氏の記事を作成したのは、インタビュアーが「飯田高誉」氏というキュレーター(渋谷区立松濤美術館副館長)と言う、国際情勢や政治とは関係なさそうな人で、そのとりまとめは毎日新聞社東京本社学芸部所属の「平林由梨」記者という、これまた国際政治や社会情勢とは少し畑違いの部署の記者さんがまとめています。 一方で、駐日イスラエル大使の記事は、「古本陽荘」氏という、政治部、外信部経験のある毎日新聞北米局長という、こちらは専門家のかつそれなりに経験とポジションのある人。例えば、同じ外信部の記者がどちらも担当して比較すると言うのならば、それはまだ理解出来るし、逆にどちらも一般読者代表みたいな形で、全く国際政治とは関係無い人が書くこともそれなりに意味があるのかもしれない。でも、180度異なる主張の記事が、一方は専門家が、他方は素人とは言わないけれど専門家とは言えない人が作成する事に何らかの意味があるのだろうか。

飯田氏の略歴を見ていると、2011年から2015年に慶應義塾大学で「政治とアート:戦争と芸術」という講座を持っていたそうで、どう言う内容かと思ったら、2007年から2009年に戦争画に関しての活動をしていたようで、そう言う関係の講座なのかと思うのですが、余り今回のインタビューとの接点を感じるものでは無いような気がします。また、重信氏の記事に関して、インタビューは飯田氏が行い、記事構成と最終的な編集は平林氏が行ったようなので、そう言う意味では記事から感じる印象は、平林氏の主張・意図の方が強いのかな。そう考えると、飯田氏は私よりも上の世代なので、テルアビブの事件は良く知っている反面、平林氏は私よりも二回り以上若い人なので、あの事件自体は知らずにその後の記録などで理解している世代だと思うんですよね。そう考えると、多分インタビュー時にはそれなりに当時の話とか今でも有益な情報が話されたのかもしれないけれど、それをまとめた人がある意味あのテロ行為に何か意味を見いだそうとする重信氏や関係者の意図を、意識的か無意識か分からないけれど、補強するような感じの記事を作成して、公開したんじゃ無いかという気がします。だから、専門である外信部経験もある、北米局長というそれなりの地位の人が慌てて駐日大使の反論を掲載してバランスを取ろうとしたんじゃ無いだろうか。

後編の見出しには「もっと違う形で戦っていたら、こんな社会には...」と書かれているけれど、つまり重信氏は今の平和な日本が気に食わないし、あのテルアビブ空港乱射事件が成功していたら、自分達の理想とする社会体制が生まれたという思いを今でも持っていると言っている訳ですよね。それって、力による改変=テロによる転覆を認めているわけで、となると朝日新聞神戸支社事件を経験している朝日新聞は、毎日新聞のこの記事に対して何か言う事は無いのだろうか。いつも感じる事ですが、1960年から1970年代に掛けての、この手の学生運動だったり日本赤軍の行動に関して、何か憧れみたいな意識を持っている世代というか集団が未だに残っているんですよね。当時そう言う事にシンパシーを抱いていた学生達が、卒業後の就職先としてメディアに多く流れていった事で、今でもそう言う事に理解を示す一部メディアが存在する理由になっているという事を聞きますが、あながち間違った話では無いような気がします。また、個人的に勝手に想像しているのは、これって「忠臣蔵」の世界観に何となくすり替えているんじゃ無いかという事。君主の敵を討つために、四十七士の討ち入りは、その後処刑されたことからも当時としても「テロ行為」だったわけです。ただし、民衆の心は赤穂浪士に同情的であり、だからこそ何か美しく話が作られていったような。あの話も、実は今言われている内容は後日作られた話と言うことも聞いたことがあり、実際にはどうだったのかは分からないけれど、安倍元総理襲撃事件の容疑者に対して異常に擁護論や被害者である安倍元総理へ言われ無き批判が生まれてくることを考えると、そう言う美しい誤解が根底に有るんじゃ無いかという気がします。だからこそ、リアルタイムにあの空港乱射事件を知らない世代の人間が、話だけ聞いて記事を作るとこう言う話になるという一例なんでしょうね。いずれにしても、毎日新聞は、ちゃんとした説明が必要だと思うし、朝日新聞は自社の経験から強く批判するべきだと思う。

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