2021年5月20日

メディアの有料化

佐々木俊尚氏が引用していた、メディアの有料化に関してのWIREDの翻訳記事。有料化により、必要な人が必要な情報にアクセスする事が難しくなり、限定された情報に基づく特異な理解や認識が増幅される「エコーチェンバー(Echo Chamber)」が新たに生まれていくという内容。

何度か書いていますが、メディアと言えども私企業の一つなので、それまでの広告収入を中心とした無料公開のスキームから、高品質の情報に関しては某かの対価を設定して、会社としての存在を維持する事は全く問題ない活動だと思います。まぁ、本来の報道以外の、例えば不動産投資とかで経営が維持されていることは、じゃぁメディア企業としての意味があるのかという疑問は感じるけれど、別にメディア業一本で生計を立てなければならないという決まりもないわけだから、そこは有る程度多角的な経営内容を目指すことは悪い事じゃない。その中で、やはり経営の中心となる「報道」を有る程度収益の中心にしたいという気持ちもあるだろうし、例えば「〇〇新聞社」という会社が、新聞収益が全体の数%で、残りは別の事業収益から得ているなんていう状況になったら、それって社名変更も含めて業態変更を目指すべきだとは思うけれど。とは言っても、情報ビジネス自体は将来性もあるだろうし、社会基盤としても重要なものだから、決して斜陽産業ではないし、一寸前の自動車産業とか半導体産業みたいな、ある意味産業構造の核になる物だと思う。

ただ、それらの産業と大きく異なるのは、自動車産業にしても半導体産業にしても、それなりの生産設備や研究開発費など、膨大なコストとリソースが必要だったことに対して、情報産業はそれに比較したら桁違いに低いコストやリソースで可能になるという事でしょう。極端な話、インターネット回線一つ持っていれば、個人経営の情報発信会社が世界的な企業になる事も可能。ある意味、小説作家がヒット作を書き上げたら、世界的なベストセラーになるようなスキームが、現在の情報関連企業にはあると言って良いでしょう。問題なのは、同じ「情報産業」である旧来の新聞社とか放送局が、昔のコストもリソースも必要な旧態依然の思想で今も経営されている事なんじゃないかと。New York TImes何かは、上手く脱皮した企業だと思うけれど、本来は最先端の企業組織となるべき情報産業、特に「メディア」と呼ばれている会社や企業体は、時代の波に取り残されていると思う。勿論、過去の柵がない最近のメディア、例えばAbema TVとかが時代の最先端の仕組みや技術を取り入れて成功しているかと言えば、そこまではまだ到達していない。その理由は、やはり視聴者の殆どがレガシーメディアが提供してきた、「情報は無料で貰える物」という意識が、まだ根強く残っているからだと思います。

もう一つ重要なのは、今殆どのニュースサイトがやっているように、記事の一部を無料公開して、「続きは有料ページ」という途中でぶつ切りするようなやり方では、有料会員は勿論、それまでアクセスしていた無料会員すらも失うだろうという事。情報産業のうち、所謂「メディア」と言われる企業は、私企業ではあるけれど「報道」という公益性も要求されるわけで、そこには提供する情報は可能な限り誤解されないように必要十分な内容であるべきだと思うんですよね。だから理想的には、文字数や画像など制限はあっても、伝えるべき情報が偏り無く記述された「無料面」と、さらに詳細な内容や、画像や動画サービス、あるいは別の情報等より品質や内容が充実した「有料面」という構成が臨ましい。でも、そうすると殆どの人は無料面のみ読んで終わるので、メディアとしてはぶつ切り方式で何としても有料面に誘導したいのでしょう。その辺りは難しい問題だと思うけれど、やはりお金を払ってでも読みたいと動機付けできる品質であったり内容であるべきだと思うなぁ。例えば、信頼出来る記者の記名記事なら読んでみたい、という方向性を考えるべきじゃないだろうか。あと、個人的には、今のように「一月幾ら」という価格付けではなく、従量制だったり、例えばクーポン制度みたいに「3000円分のクーポン購入で、10円/1記事で330記事購読可能」みたいな方法もあったら嬉しい。今の月幾らの仕組みだと、有料記事であってもその内容が貧相な場合や、興味の無い話だった時に、凄くガッカリして無駄になる気がするんですよね。そうすると、「あぁ、3000円損した」という気持ちになってしまう。最終的には、どの様に情報を入手してどの様に咀嚼して活用するかは、その個人のリテラシーの話だけれど、一方で例えば「無農薬野菜」は多少高くても購入する人がいるように、メディア側も新しいビジネススキームも考えないと。例えば特集記事は普通の記事よりは高いけれど、一度契約したら継続記事が読めるとか、もっと読者のニーズを吸い上げる努力も必要だと思う。そうで無いと、今の「ぶつ切り有料面」では、直ぐに衰退していくことだけは確実でしょうね。

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