2021年5月1日

風評加害者

「風評被害者」が存在するのは、「風評加害者」が居るからだという言説をネットで見て膝ポンしたんですが、 まさにその「風評加害者」とでも言うべき記事の一つ。執筆者の姫田小夏氏のプロフィールを見ると、上海の大学への留学経験や、現地での滞在期間も長く、現地の事情に明るい様子が伺えます。実際過去の記事を幾つか読んでみたけれど、それなりに面白い視点を感じましたが、この福島第一原発の記事では、その詳しい中国国内の情報は良いとしても、それを裏付ける科学的・技術的な理解が足りないので、正直不十分な内容と感じられます。

「専門家が挙げる5つの理由」にしても、既に解決されているあるいは誤解であることは明らか。

  1. チェルノブイリと同じ「レベル7」の事故
    福島の事故では、放出された放射性物質の量がレベル7の規定を超えたので「レベル7」と判定されてますが、その量はチェルノブイリの1/10以下であり、事故の定義レベルは同じだが、事故の規模や内容は同一では無い、というのが事実。同一視する事が間違いである事は、既に事故直後に言われている話。それを未だに引っ張り出してくるのは、それを知らないか、プロパガンダに乗せられているかでしょうね。
  2. 処理水の質が異なる
    これは、私も一時は一理ある理由と思っていましたが、結局これまでの冷却水であろうと、今回の処理水であろうと、同じ規準で検査をしてその結果を評価しているわけだから、そこで規準を満足しているのであれば、出所が違っても結論は同じはず。仮に、処理水の検査結果に未知の物が含まれていると言うのであれば、それは冷却水に含まれていても不明なわけで、それで問題が発生するなら既に何らかの現象が確認されているはず。本当に「質が異なる」のであれば、それを中国(や、韓国)が示さない限り、それは単なる妄想でしかない。そんなことを言い出したら、「中国の排水処理は日本の規準とは違うから、中国の水を使用した食品は信用できない」みたいな事も正しくなるのだけれど、良いのだろうか?
  3. ALPSが万全では無い
    これも情報が事故直後からアップデートされていない証拠。当初は、処理が不完全でも増加する汚染水を移動させることを優先したから、保管タンクの中の7割位が二次処理が必要な事は東電も認めている。その後ALPSも改良されて、最近の処理水は実はそのまま放出可能な位のレベルになっていることも事実。その情報は、東京電力が「処理水ポータル」としてまとめていて、現在では問題ないことは、その膨大なデータを見れば明らか。今、ALPSの処理性能とか、処理水の質に関して疑問を呈するのであれば、二次処理が必要な以前の処理水の量であったり、その二次処理過程の詳細であったり、あるいは海洋放出する場合の順番であるとか、そう言う点に疑問を持つなら分かるけれど、「ALPSが万全ではない」という理由は、今では「私は何も知りません」と言っていることと同じだと思う。
  4. データの公開が不十分
    日本政府として、対外的に福島の件について積極的に発信や広報活動をしてきたか、と言われれば、それは私も「不十分」だったと思うけれど、上記の「処理水ポータル」であったり、最近の活動に関して言えば、かなり努力していると思います。それに、原子力関係の情報なのだから、IAEAが本来窓口になるはずで、個別に対応するものでも無いでしょう。何処かの国のように、IAEAに対しても秘匿しているような事があるのであれば、そこは非難すれば良いと思うけれど、そのIAEAからもお墨付きを貰っている以上問題は無い。ただし、強いて言えば、英語や多言語による国際的な広報活動に関しては、もっと進めるべきだとは思うけれど。
  5. 近隣諸国や国際社会に十分な協議や説明が無い
    近隣諸国といいつつも、それは中国、韓国、あとロシア位でしょう。大体、何度も書いているけれど、地理的に影響を受ける度合いが皆無と思われる場所から、なんでクレームされるのか。どう言う自然現象が発生したら、福島から反対側の韓国や中国へ影響するのか、まずはそれを逆に説明して欲しい。地球を一周して影響するというのであれば、まずクレームするのは太平洋地域の国々であり、北米・南米であり、欧州・アフリカ諸国であり、そしてアジア諸国なんですからね。
記事の中では、IAEAの懸念を取り上げているけれど、それは1年前の話で、海洋放出に関してのIAEAも認めたことは取り上げない。トリチウムの不安を訴えるNPOの話を取り上げているけれど、それならば日本以上にトリチウムを放出している中国や韓国に対しての懸念の方がより大きいはずなのに、それは取り上げない。意図的なのか、情報不足なのか、そこまでは判断出来ないけれど、少なくとも同じ内容を記事にするとしても、最新の情報を確認するくらいのことはやっても良いのでは。不思議な事に、データは1年前の物を参照しているのに、例のトリチウム説明ポスターのキャラクターの話は取り上げているんですよね。その部分に、執筆者のちぐはぐさを凄く感じます。

そして、最後には「これは中国だけの問題ではない、日本の国民にも影響する共通の問題」というトーンでまとめるんですが、それっていつも中国が言う話では。中国が、中国国民に対しての説明不足とか言うのであれば理解出来るけれど、何故に他国の国民の心配をするかと。それなら、日本人や日本政府、あるいは日本以外の国が、中国の人権であるとか、ウイグル問題に「懸念」を示しても、中国は文句を言えないはずなんだけれど。で、最後の結論は、お決まりの、

そのためには、国民と国際社会が共有できる自由で開かれた議論の場が必要だ。日本政府と東京電力にはよりいっそう丁寧な対応が求められている。

と、「まだまだ議論が必要、丁寧な対応・説明が必要」と言う言い方をしている。それならば、こう言う記事では少なくとも最新の情報を根拠に話をするべきで、それでも足りないのであればまだ分かるけれど、古い情報や前提で話を進めて「丁寧な説明」と言われても、それはあなたの理解が足りないだけではとしか言いようが無い話。で、こう言う中途半端な記事が大手のサイトで掲載されて、それが権威付けされて拡散されて風評となり、 いつまでたっても情報が更新されない状態が続くから、いつまでたっても風評被害は解決しないんですよね。まさに「風評加害者」の実例みたいな記事だと思う。

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