2021年3月8日

裁判官としての倫理観

毎日新聞が、有料化部分無しで全文公開している、と言う点でもちょっと「あれ」な印象を受けるんですが、内容を読んでみたらますます「あれ」な気持ちになる記事。大飯原発差し止め判決を出した、元福井地裁裁判長の樋口英明氏の出版記念の講演会の記事らしいけれど、本文後半に書かれている、「原発の耐震性が低い」という主張の理由説明が全く無い。

後半の記載されている原発運転が許されない理由は、

  1. 原発事故の被害は重大 => 正しい
  2. 故に原発には高度な安全性が求められる => 正しい
  3. 地震大国日本では原発の高度の安全性があるということは、原発の高度な耐震性があることに他ならない
    => 文章が何か変だけれど、地震が多いからより高い安全性が求められて、その耐震性が担保されていることは正しい
  4. 我が国の原発の耐震性は極めて低い => 根拠は? 
  5. よって、原発の運転は許されない => 前段の推定が成立していないのに、そこから結論を導くのは不備
3番で「耐震性がある」と言いつつ、次の4番では「耐震性が低い」と反対のことを言っているのに、その根拠が無い。仮に福島第一原発の事故のことを言っているのであれば、地震で事故が発生したわけでは無く、津波対策の不備(電源喪失)が水素爆発の原因なのだから、その点を言うべきなのに意図的なのかそれは言っていない。

また、阪神大震災以前と囲碁では耐震性が違うと言う趣旨を書いているけれど、確かにあの前後では耐震基準は変わっただろうけど、それでも「原子力発電所」という重要施設だけに、阪神大震災以前でも十分な耐震性が要求されていたわけだし、だからこそ候補地の調査や地層調査に何年も費やしているわけだろうし。だいたい、記事の最初に

多くの原発の耐震性が一般住宅より低く、その低さの根拠が不可能とされている地震予知に基づくことは間違いなく電力会社が最も国民に知られたくない事実

と書かれているけれど、「原発の耐震性が一般住宅より低い」 という根拠は何だろうか。震源地に最も近かった東北電力の女川原発は、震災の影響も津波の影響も凌ぎきり、だからこそ近隣住民の避難場所にもなったくらいなのに、何故一般住宅より低いというのだろうか。福島第一だって、水素爆発が無ければあそこまでの被災は無かったわけだし、福島第二も幸運にも給水用発電機が一台使用出来たから福島第一のようにはならなかったけれど、別に震災で倒壊したわけじゃ無い。彼の論理的根拠になっている「一般住宅より低い」という根拠がどこにも書かれていないのに、それを根拠にしている矛盾。さらには、地震予知が事実上不可能に近いことは分かっていて、だからこそ最近では以前ほど地震予知の話が減っているけれど、それでも将来に備えて色々な対策もされているわけで、それを個人の思い込みから「国民に知られたくない事実」と言い切るのは、既に裁判官は退官しているとは言え、無責任な気がする。

この人が、こう言う発言や行動をする理由が、「原発の危険性が明らかだったから、(裁判官の)伝統を破った」と言っているみたいですが、「伝統を破った」のではなく「裁判官としての矜持を破った」「倫理観を壊した」と言う方が正しいのでは。裁判では、それぞれ膨大な資料が出てきているはずで、それに対して電力会社側の耐震構造に関しての資料は殆ど参照されなかったと当時の記事などでは指摘されていたと思いますが、裁判官が法律を守らなかったら、それって裁判官としての職場放棄じゃないだろうか。毎日新聞は、自分達の趣旨に沿っているから取り上げているんだろうけど、その方向性が同じだからと言う理由だけで大きく取り上げるというのは、節操がない以前にみっともない印象すら受けますね。まぁ、こう言うメディアがあるから、ああいう裁判官も生まれるんだろうけど。

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