2020年1月21日

貧困とパスポート

永江一石氏のコラムから、日本の20代パスポート新規発行率の謎について。Huffingtonpostのこの記事についてなんですが、日本の20代のパスポート新規発行率が低迷している、それは貧困が理由、みたいな論調。永江氏がコラムの中で指摘しているように「新規発行率」というのが曲者で、20代分には19歳以下で新規発行されたパスポートは含まないし、その分が更新された分も含まない。逆に言えば、20代の場合10代での取得分も含めると、半数近くはパスポートを所有している可能性があるわけで、あえて「新規発行」と言う理由付けがよく分からない。

私が高校生の時代は、まだ極々一部の高校の行事だったけれど、1990年代位から高校や場合によっては中学などで修学旅行で海外へ行くことがブームになり、今ではそんなに珍しい事でもなくなりました。経済の低迷もあり、最近ではそんなでも無いのかもしれないけれど、高校生でパスポートを初めて作る、と言う事も結構多いと思いますよ。自分は、就職した時に「いずれ海外出張の機会もあるから」と言われて、予定も無いのに会社の費用でパスポートを作ったのが初めてなんですが、結局利用したのは作ってから3年後だったし。それでも、20代なら仕事もあるし、新婚旅行で使うと言う事も有るだろうし。そう言う意味では、10代よりも20代の方がパスポートを使用する機会も多いとは思うけれど、経済の低迷で新婚旅行は国内に、海外出張は電話会議に、どうしても人を送る場合は既にパスポートのある人優先、みたいなことが、ここ最近まで起こっていたような気がします。いずれにしても、「新規発行数」の疑問は永江氏が解説しているとおりで、それは統計値の読み方をどう解釈するかの話。

で、元記事を読んでいて、この新規ポスポート発行の話は後半に出てくるんですが、その前半の話もちょっと胡散臭いというか、何かこじつけ感が満載。シンガポールに赴任している娘や息子が、現地の物価高に苦労しているので、日本に居る家族が食べ物や衣類をハンドキャリーしているという話なんですが、それ本当か? まず、日本の食材で現地の方が安いという事は先ず無い。アメリカだと、現地生産のカップヌードルやインスタントラーメンは安いけれど、総じて日本の食材は高い物だし、だから普通は現地の食材を利用してアレンジしたり現地の食べ物を食べるはず。それにアジアの場合は、基本外食だから、食費という観点ではシンガポールでも日本よりはぐっと安くなるはずなんですよね。衣類や雑貨も、日本品質には足りない物が殆どだけれど、それで生活出来ないと言う話は無いし、UNIQLOやMUJIはシンガポールも含めてあちこちにあるから、そんなに不便しない。と言うか、食料品の輸入はどこの国も厳しいし、そんなに家族が頻繁にハンドキャリーする費用だって馬鹿にならない。「嘘」とは言わないけれど、ちょっと誇張が激しい気がする文章じゃないかと。

ホテルの代金にしても、シーズンやタイミングで料金なんてコロコロ変わるもの。Hilton Singaporeが27,000円で高いと書いているけれど、ヒルトン東京だってそれ位。Marina Bay-sandsのグレードをどう見るか難しいけれど、47,000円位なら、Marriott TokyoとかWestinならそれ位か。試しに、来月21日1泊1人1部屋でHilton Singaporeを検索すると、前払いでSGD$246(約19,700円/SGD$1=80円)、キャンセル可能だとSGD$278(約22,200円)。同じ日に、Hilton Tokyoだと、前払いで22,950円でキャンセル可能だと25,920円なんですが、日本以外の多くの地域では「部屋貸し」なので、定員以内で利用するなら料金は一人でも二人でも同じ。でも、Hilton Tokyoで1室2人利用だと、前払いで24,000円、キャンセル可能だと28,800円とアップします。だから、二人とか三人で利用するなら、海外のホテルは大概の場合日本よりも割安に成るのが普通だと思います。ホテル代金は、比較の一例ではあるけれど、正直この記事の引用では説得力が無いと思う。現地赴任している人の話なのに、なんでホテル代金? 出張ではなく「赴任」なんだから、アパートとかレンタルルームみたいな物を利用するのが普通だと思うのだけれど。逆にホテルに長期滞在するなら、Weekly RateとかMonthly Rateとか、長期割引が利くから、短期宿泊料金よりもかなり割引になる場合もありますし。

給与水準の話も変な話で、日本では1000万円/1200万円の人がシンガポールでは1100万円/1300万円前後になり「大きく上回っていて高い物価にも耐えられる」と書いている。でも、1割の差が「大きく上回る」差ですか? 50%とか倍近く違うなら「大きく」と思うけれど、10%程度なら為替でその程度の差は生まれることもあるだろうし、大体Singaporeで日本円で貰うわけでは無いから、Singapore Dollarで幾らで、それがどの程度なのか、という比較をしないと無意味。Singaporeで貰った給料を日本に送金して円にして、それで日本で生活しているわけじゃ無いんだから。続く段落で「日本企業の管理職の給与がシンガポールを下回った」として、為替の影響を説明して、SGDと日本円のレートは、2007年当時SGD$1=80円で、途中変動はあったけれど、今でもほぼ同じ。しかし、SingaporeのGDPはSGD$2727億からSGD$4980億と1.83倍(+83%)になったが、日本のGDPは531兆円から557兆円に僅か4.9%の増加に留まり、日本の低成長を憂います。確かに見た目の増加率ではSingaporeは大きいけれど、為替が一定という想定なら、SGD$2727億=21兆8千億円から、SGD$4980億=39兆84百億円へと、約18兆円の増加で、それは日本の26兆円の増加よりも実は少ない。そう言う意味では、日本の方がSingaporeよりも、GDPの成長値は大きい。勿論、人口比とか経済規模とか、色々指標はあるわけで、人口が560万人で、日本の20分の1の人数でそれだけの経済拡大することは非常に重要ではあるけれど、元の1.85倍(+85%)vs+4.9%という印象よりはかなり変わってきます。さらに、この部分では13年前の話をしているのに、最後では5年前の話を持ち出している。何か読んでいて、支離滅裂一歩手前の話に聞こえます。為替を調べてみたら、5年前(2014年11月~2015年4月)だと、SGD$1=87円~90円位何です。だから、その当時と比較すると、今は「円高」なんですが...

大体何でSingaporeなのか。急成長というのであれば、MalaysiaとかIndonesiaとか、もっと成長著しい地区はあるわけで、そちらの方が説得力があるのでは。日本の低経済成長や若者の内向性に警鐘を鳴らすのは良いことだし、必要な事だとは思うけれど、その説明が少し強引すぎないだろうか。大体、タイトルで「日本の若者の貧困」と言いながら、最初に例に出す海外赴任の話の若者は「貧困」なのか? それだけの会社に就職できて、海外赴任というどちらかと言えば重要な仕事を任せて貰える「勝ち組」なんじゃないかの? 例えば一人でベンチャー企業を目指して、東南アジアで裸一貫で起業して、苦労はしているけれど日本よりも充実している、と言う筋立てなら、まだ日本で苦労している「貧困」若者は外に出ろという筋立てに沿っているし、説得力もあると思うのだけれど。発端は、永江氏のパスポートの話だったけれど、いざ元記事を観てみたら其れ以前にいろいろ「むむむ???」な内容だったでござるという話だったような。

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